2017年7月31日月曜日

【シングル】第7世代のための新役割理論 -対戦理論記事連載第2弾

近頃、役割理論などかつてのシングル対戦理論が通用しない実戦の立ち回りを見て、この第7世代特有の立ち回りや構築の理論を体系化してみようと試みた。



この動画は、第三回真皇杯 本戦の決勝戦、マイケル氏とA0氏の対戦である。
これは正に第7世代のシングルバトルを象徴するかのような対戦動画であろう。

このような第7世代を象徴するかのような対戦は、従来の役割理論では網羅できず、現在の立ち回りや選出、構築などを体系的にまとめた他の対戦理論は存在しない。
そのため、私自身の理解を助けるためという理由もあり、以下にまとめようと思う。


◇従来の役割理論
これについては前記事を参照して頂きたい。
【シングル】役割理論について簡単に解説 -対戦理論記事連載 第1弾

それを踏まえた上で、現状の役割理論の問題点の解決策と、役割理論の原案を記した最古の文書をベースに以下の新役割理論を展開する。


◇現状の役割理論
第7世代のシングルバトルでは、先程の動画のように強力な特性やメガシンカ、Z技によって、ポケモンが「受け」の「防御側の役割理論」で戦うことが非常に困難になってしまった。その結果、現在では「流し」や「誤魔化し」の「攻撃側の役割理論」の組み合わせによる交代戦でのサイクルになっている場合が多い。
そのため、従来通りの「受け」「流し」「誤魔化し」などの役割のみでは説明が出来ず、加えて第5世代以降、「対面構築」「決定力と抜き性能」「行動保証」「対面操作」「役割集中」などの新たな用語も生まれた。以上の内容を踏まえ、役割理論の再構築が必要だと考えた。
これらは従来の役割理論には無かったり、応用された考え方であり、その他ポイヒグライオンやキノガッサ、やどみが、食べ残し毒身代守る等のループ嵌め戦法、壁やバトン展開からの全抜きなどのギミック、特性や技を駆使した天候やフィールドの取り合い、その他戦術としての「読み」や「ケア」、「釣り交代」などを含めると役割理論通りのサイクルは実戦では殆ど発生しない。
むしろ、役割理論のサイクルは選出画面で各プレイヤーは多くの選択肢を想定し、それを踏まえて対戦の大局を計画し、選出を確定するといった最初の段階の思考法として、また毎ターン、ダメージレースの優劣判断からの軌道修正の前提理論として機能している。


◇役割理論黎明期の原案(最古の役割理論に関する文書)
for Gym Leaders. by Hidaka
まずは上記の記事(Hidaka氏が2001年作成)をご覧頂きたい。
これによると、従来の役割理論でしばしば説明されてきた、「受け」や「流し」、「役割破壊」などの記述はなく、「駒」と「役割」の関係性と、「駒」の動かし方の鉄則、選出時に「役割」を「駒」に与えるべきとするなどの事項のみが記述されていた。
そして最終的な目的は勿論「勝利」であり、そのために必要な局面であればリスクを負った「読み」や相手のハイリスク行動を阻止するための「ケア」にあたる概念も取り込まれている。
つまり、役割理論とは、本来は「受け」や「流し」や「サイクル」といった今の凝り固まった認識とは違い、もっと柔軟であり、正にシングルバトルの根幹を説明し得る理論である。
また、第2世代で現役プレイヤーであったゴールド氏などに話を聞く機会があり、彼からは「今、巷で良く見る役割理論はしゃわ氏がHidaka氏の役割理論を応用させて第2世代用に体系化させたものだったんです。彼の凄いところは、文章でしか伝わらなかった役割理論を初めて記号化させてすごく扱いやすくしたことで、第2世代以降のシングル対戦に革命を起こしたことなんですよ!」と、今まで私が知り得なかった役割理論黎明期のエピソードを深く語って頂いた。


◇選出画面からの各プレイヤーの思考、行動

・選出画面から
1 構築の基軸で相手のPT全体に勝てるかを判断する。
2 役割理論に基づいて、相手のPT全体と自分のPT全体を見ながら、ダメージレースでの動きを予測し、「崩し」が必要なポケモンを見つける。
3 1,2を踏まえて考えた幾つかの選出案の中から最も勝率が高い選出を判断する。

・対戦開始から
4 先発対面の優劣を判断し、居座れるかを判断する。
5 先発で居座れると判断した場合、相手が交代して対面の優劣が逆転しても対応出来る方法を、「読み」による役割破壊技を打つか、相手が敢えて居座って来ることを想定し「ケア」するか、「釣り交代」して有利対面を維持させるかを判断する。
5’ 居座れないと判断した場合、普通に交代して有利対面を作るか、相手の「読み」による役割破壊技や「釣り交代」を「ケア」した交代先の検討、敢えての居座りを判断する。
6 相手が「崩し」の必要なポケモンを繰り出したとき、それを選出段階での計画に沿って対処する。
7 暫く4、5、5’、6を繰り返してダメージレースが進行する。その際、毎ターンの結果によって勝ち筋の計画を修正していく。
8 終盤になり、ダメージレースの結果が確定して勝敗が決する。


◇「山」と「崩し」
ここで重要になるのが、新たな役割概念の「崩し」である。
「崩し」が必要なポケモンとは、例えばHBクレセリアや輝石ポリゴン2などの数値的な「受け」の役割を持つポケモンであったり、やどみがテッカグヤとかポイヒグライオンなどの無限ループ嵌め型のポケモン、竜舞羽身代わりメガボーマンダなどの高耐久の展開ポケモン、カプ・コケコやフェローチェ、ゲッコウガ、メガゲンガーなどの高速アタッカー、ミミッキュや襷キノガッサなどの対面での打ち合いに強いポケモン等が挙げられる。
また、「崩し」が必要なポケモンをここからは「山」と表現することにしよう。これらは相対的な概念であり、◯◯は△△へ「山」の役割を持つとか◇◇は◯◯の「山」へ「崩し」の役割を持つというように使う。したがって、「山」の役割に対する「役割破壊」が「崩し」という意味であり、複数のポケモンに対してそれぞれ「山」と「崩し」を併せ持つ竜舞羽身代わりメガボーマンダのようなポケモンも存在し得る。
それら、自分のPTから見ると「山」となるポケモンは、選出段階から圧力がかかり、自分のPTから明確な「崩し」が可能なポケモンの選出を強要されている。
つまり、現在のシングルバトルでは「山」となるポケモンと「崩し」が可能なポケモンの競り合いとして説明がつくと考えた。

この段階まで来ると、従来の役割理論の拡張が必要なため、「新役割理論」としてこれから再構築していく。



■新役割理論

新役割理論は、従来の役割理論の理念を公理として拡張させていくこととする。
そのため、従来の役割理論で使われた用語である「役割」「役割破壊」を始めとして「受け」や「流し」、「誤魔化し」も原理として扱う。
その上で、先程述べた「山」と「崩し」の概念を取り入れ、ドグラ氏の記事で提唱されていた「決定力」と「抜き性能」の概念も「崩し」の成分として取り入れることとする。

それらを踏まえて、新役割理論では第7世代のシングルバトルを「自分は相手より高い山を置いて、相手の山を全て崩すゲーム」であると表現しよう。つまり、「相手の山を全て崩せなければゲームに敗北する」とも言える。そのため、ポケモンのカテゴリは「山」と「崩し」、「山を崩せないポケモン」の3つに大別される。

ここからは「山」と「崩し」をカテゴライズし分類していく。


◇「山」と「崩し」の分類(後述のデータ処理のため仮設的に配置)

●山

▶防御の山

①「受け」の役割を持つポケモン:HBクレセリア、輝石ポリゴン2、輝石ラッキー等

②永久回復+身代わり+守るが使えるポケモン:ポイヒグライオン、食べ残し宿り木テッカグヤ、食べ残し毒スイクン等

③積み技+回復技が使えるポケモン:メガボーマンダ、カビゴン、クレセリア、カバルドン等

④吠える又は黒い霧が使えるポケモン:カバルドン、ドヒドイデ等

※壁技は防御の山をより強化するため、または山でないポケモンに防御の山の性能を付与するために存在すると解釈する。

→物理打点への受けの山をBM、特殊打点への受けの山をDM、永久回復みがまもの山をEM、積み技+回復技の山をGM(GBM、GDM、GEM等の応用も可能)吠える又は黒い霧の山をRMとする。

▶攻撃の山(一般的にはストッパーと言われることもある)

①「流し」や「誤魔化し」の役割を持つポケモン:メガバシャーモに対するメガボーマンダやカプ・レヒレ等

②高速アタッカーのポケモン:カプ・コケコ、フェローチェ、ゲッコウガ、メガゲンガー、スカーフカプ・テテフ等

③高い耐久又は耐性且つ強力な先制技を持つポケモン:カイリュー、ウインディ、マリルリ等

④行動保証があり打ち合いに強いポケモン:ミミッキュ、襷キノガッサ、カイリュー等

※トリックルームはドサイドンなどの低速高耐久アタッカーを攻撃の山に変換するための技と解釈出来る。天候でS+2の特性を持つポケモンへの天候書き換えも同様。

→流しの山をFM、高速アタッカーの山をHM、先生技の山をIM、行動保障の山をVM(これらも、特殊攻撃の高速アタッカーならばCHMのように応用出来る)とする。

また、新たな「山」の概念が必要となれば、随時追加する。

●崩し

▶遅い崩し

①永久的な定数ダメージでの崩し:毒々、火傷、呪い、宿り木等を使用するポケモン

②PPを枯らす動きでの崩し:食べ残し身代わり守るスイクン等

③滅びの歌を使うポケモン:メガゲンガー、ニョロトノ等

④一撃技を使う決定力重視:グライオンのハサミギロチン、ドリュウズのつのドリル、スイクンの絶対零度等

→遅い崩しをSDとする。役割が山とも両立出来るときは、GEM-SD(食べ残し熱湯瞑想身代わり守るスイクン等)の用に表記する。
定数ダメージの崩しをSLD、PP枯らしの崩しをSWD、滅びの歌の崩しをSPD、一撃技の崩しをSKDとする。


▶速い崩し

①打点的な決定力重視:電Zカプ・コケコ、眼鏡カプ・テテフ、猫捨て身メガガルーラ等

②相手を眠り状態、又は麻痺、火傷にさせる決定力重視:キノガッサ、メガゲンガー、化身ボルトロス、ジャローダ等

③単体の積みによる抜き性能重視:珠パルシェン、竜舞メガボーマンダ等

④積みバトンによる抜き性能重視:剣の舞バトンバシャーモ、Zバトンイーブイ等


→速い崩しをFDとする。決定力重視の崩しはFOD、抜き性能重視の崩しはFADとする。また、決定力と抜き性能に負の相関がないことにより、決定力と抜き性能のどちらも兼ね備える場合はどちらの要素が濃いかでFOAD、FAODと表記する。
打点的な決定力をFOZD、状態異常による決定力をFOTD、単体積みの抜き性能をFAGD、積みバトンによる抜き性能をFABDとする。

以上のように、一通りの記号化を経て、shade氏の協力により各「山」と「崩し」のタイプ相性表的な相互関係を、仮設的に私の主観の元、数値評価して入力し、それをグラフ化したのが以下の図である。



図1「山の性能比較」→これは縦軸数値が高いほど「山」としての性能が高い
 


    図2「崩しへの抵抗値比較」→つまり縦軸数値が低いほど「崩し」の性能が高い

以上のグラフを考察すると、「山」は単なる「物理受け」や「特殊受け」では最早成り立たず、「積み」+「回復」又は「展開対応技」+「回復」で初めて山と見なすことが出来るということが分かる。また、次に強力な「山」とは「行動保障」を持つ展開ポケモン、つまりミミッキュやカイリュー、襷霊獣ランドロスなどであり、これも現状のプレイヤー達の認識と大きく乖離はしていない。
それから、「崩し」の性能を比較すると、最も強力なのは「バトン展開が成功する前提での各種エース」となり、結果として「サブウェポンとしてのバトン展開」の有用性を示唆する結果となった。次に強力な「崩し」とは「回復性能+毒や呪いなどの定数ダメージによる突破力」となった。これで身代わり+回復+毒のゴツゴツメットHBクレセリアなどの「崩し」としての強さが示された。つまり、第6世代でのゴツゴツメットのHBクレセリアは「弱い山であり、強い崩し」であったことが分かる。

以上より、ノーマル技+龍の舞+羽休め+身代わりの調整メガボーマンダが「山」としても「崩し」としても非常に強力であることが、今回のデータ処理でも裏付けられた。
そのため、この結果はある程度プレイヤー達の認識と合致しており、この結果からの未だ見ぬ強力なポケモンの型の開拓に貢献出来る可能性すら含んでいる。


◇今後の考察目標

今回の考察で「山」と「崩し」の概念を新たに作ってシングルバトルの理解を進めた。
しかし、このままでは一つの対戦での交代を含む複雑な要素はまだ説明しきれておらず、サイクル戦のダメージレースを追うための理論の補強が必要とされる。

そこで、「「山」となり「崩し」を行うのは「駒」である」として、「駒」の交代で生まれる隙を「谷」と表現してみることにした。そして「山」と「谷」が揺れ動く度に、対戦初期にあった「エネルギー」又は「資源」が互いに減少していき、最終的に0値で収束した方が敗北するといったモデルでも説明が出来るのではないかと考えた。

そうすると、シングルバトルの開始から勝敗が決するまでの一連の流れは、(sinx)/xの軌道のような「波」と表現出来る。


このように、「波動」のモデルとして表現出来れば、シングルバトルの対戦理論は数学的、物理学的なアプローチさえ可能になるのではないかと期待している。

今後は上記のような基礎理論の再検討と、記号化をやり直した上でのデータ処理の精密化を目標としたい。


参考資料:役割理論

参考資料:実践理論等(第5世代以降の対戦理論